186 研究系及び研究施設の現状
永 田 央(助教授)
A -1)専門領域:有機化学、錯体化学
A -2)研究課題:
a) 光励起電子移動を利用した触媒反応の開発
b) 金属錯体およびポルフィリンを用いた光合成モデル化合物の合成 c) 高効率電子移動触媒を指向した新規金属錯体の開発
A -3)研究活動の概略と主な成果
a) ポルフィリンの光励起電子移動を利用したキノン類の還元的シリル化反応について詳細に調べた。この反応は(1)ポ ルフィリンからキノンへの光励起電子移動、(2)シリル化試剤によるキノンアニオンラジカルのトラップ、(3)電子ド ナーによるポルフィリンカチオンラジカルの還元、の3つのステップから成る。シリル化試剤としてフェニルトリ メチルシリルスルフィドを用いると、ステップ(2)のシリル化で生じるチオフェノラートアニオンがステップ(3)の 電子ドナーとして働くため、特別な電子ドナーを加えることなく反応が効率良く進行する(触媒 0.5 mol% 、10 時間 の光照射で収率94%)。一方、シリル化試剤としてより安価なクロロトリメチルシランを用いることもできるが、こ の場合は別に電子ドナーを供給する必要がある。種々の電子ドナーが利用可能であるが、ジイソプロピルエチルア ミンが最もよい結果を与えた。ただ、基質キノンに対する制限は強く、デュロキノン(2,3,5,6-テトラメチルベンゾキ ノン)の場合反応は好収率で進行するが、無置換のベンゾキノンや 2,5-ジフェニルベンゾキノンでは副生成物が多 く観測された。途中にセミキノンラジカルを経由するため、キノン骨格が立体障害で保護されていない場合に副反 応が起こるものと考えられる。また、シリル化試剤の代わりに無水酢酸を用いれば還元的アセチル化が進行するこ とも確かめた。
b) ポルフィリンとフェロセンをポリマー骨格に結合し、その光化学挙動について調べた。デュロキノン・クロロトリメ チルシラン・ピリジン(シリル化の塩基触媒)を加えて光照射を行ったところ、キノンの還元的シリル化が進行した。 この反応は、光によってフェロセンポリマーに正電荷を蓄積したことと等価であり、新しい光合成モデル化合物へ の展開が期待できる。
c) ターピリジンとサリチルアルデヒドまたはその類縁体を分子内で結んだ配位子とその金属錯体を合成し、その電気 化学的性質について調べた。コバルト・鉄・マンガンについて1:1の錯体が高い錯形成定数で生成していることが E S I-MS により明らかとなった。主に鉄錯体について詳しく電気化学的性質を調べたが、サリチルアルデヒド・サリ チルアルコール・サリチル酸誘導体のいずれについても錯体の酸化還元電位(F e(II)/F e(III))はほとんど変化せず、錯 体の電気化学的性質は主にターピリジンの効果(特に鉄(II)状態を安定化する効果)によって決まっていることがわ かった。マンガン・コバルトの錯体についても同様の傾向が観測された。
次に、ターピリジンの N-オキシド類の金属錯体について調べた。ターピリジンのN,N’’-ジオキシドは銅、鉄、マン ガンなどと錯体を形成するが、銅(II)の場合ターピリジンと異なり1:1の錯体が収率よく得られることがわかった。 X線結晶構造解析で、銅(II)が平面4配位構造(ターピリジンN,N’’-ジオキシドが3座配位し、さらに水が1分子配位) をとることが明らかとなった。鉄・マンガン錯体の酸化還元電位はターピリジン錯体のそれとくらべてアノード側 に大きくシフトしており、この配位子が金属の高原子価状態を安定化する傾向があることを示している。
研究系及び研究施設の現状 187 B -1) 学術論文
T. NAGATA and K. TANAKA, “Pentadentate Terpyridine-Catechol Linked Ligands and Their Cobalt(III) Complexes,” Inorg. Chem. 39, 3515 (2000).
K. AIKAWA and T. NAGATA, “Synthesis of a Dinucleating Ligand Xanthene-bis(tris(2-pyridylmethyl)amine) and Its Manganese Complex,” Inorg. Chim. Acta 306, 223 (2000).
B -6) 学会および社会的活動 学協会役員、委員
日本化学会東海支部代議員(1999-2000).
C ) 研究活動の課題と展望
これまで、光合成モデル系の構築を目指して均一系の分子間光励起電子移動を利用した触媒反応の開発に取り組んで きた。昨年度は新たにポリマーを研究対象として加えたが、これは電子ドナー・アクセプター間の相互作用を溶液中でよりよ く制御することを目指すものである。光励起電子移動を利用した触媒反応は効率を上げたり適用範囲を広げたりすることが
大変難しいが、これは一見単純そうな反応であっても実際には非常に多くの反応が同時進行していることによる。特に、逆電 子移動によるエネルギー散逸とラジカル中間体による副反応を抑制することは大変難しく、現状ではまだ基質や反応試剤を 制限することによってようやく反応の選択性を確保する、という段階にとどまらざるを得ない。この壁を乗り越えるには電子移 動と化学反応の速度ギャップを埋めることが不可欠である。上記b)で述べたレドックスポリマーの活用が1つの鍵になると期 待している。